広島に来た大統領のハグと核のボタン 訪問の舞台裏は
武田肇、ワシントン=奥寺淳 2016年5月31日10時40分
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現職の米大統領として初めて被爆地・広島を訪れたオバマ大統領。象徴的な場面として注目されたのが、被爆者を抱きしめた瞬間だった。この場面に至るまでの経緯を含め、あの一日の舞台裏を追った。
白髪で杖を手にした被爆者の言葉にうなずきながら、オバマ氏が悲しげな表情に変わっていく。長い手を伸ばして抱きしめ、背中をさすった――。
オバマ氏が被爆者の森重昭さん(79)を抱きしめる場面は、日本だけでなく米国でも、写真や映像が報じられた。
「大統領があなたのところに行って話します。握手もします」。外務省の森健良・北米局長が森さんに伝えたのは、一連の行事が始まる約10分前だった。
歴史研究家でもある森さんは約40年間、広島で被爆死した米兵捕虜12人を調査し、米国人の遺族と交流してきた。
森さんはあの瞬間をこう振り返る。
「自分の言葉でお礼を伝えたい」と通訳を介さずオバマ氏に話しかけようとした。ところが緊張し、すぐに言葉に詰まってしまった。体が震え、涙がほおを伝った。その瞬間、オバマ氏に抱きしめられたという。「落ち着いて下さいという趣旨だったと思う。言葉をうまく交わせなかったことが、予期せぬハグ(抱きしめること)になった」
被爆者との対面は、4月のケリー国務長官の広島訪問時には実現しておらず、日米関係者が「どういうやりとりになるか予想がつかない」と最も気を使った場面だった。米国側にとっては「謝罪」ととらえられないことが条件だった。
工夫を凝らしたのが被爆者の人選だった。日本側が招待したのは日本原水爆被害者団体協議会の役員4人(1人は体調不良で欠席)。米国側は森さんを含めて6人を招待したが、森さんの妻を除く全員が米国史と関わる被爆者だった。
ケリー氏が訪れた原爆ドームの視察は日米とも前向きだったが、周辺に立ち並ぶビルからの狙撃を防げないなどとする米先遣隊の反対意見で、遠くから見ることにとどめた。
広島での演説は、オバマ氏側近が推敲(すいこう)を重ねた。米国の責任に触れないことが前提のため、おびただしい犠牲に触れつつも、「米国が投下した」といった主語を明確にする表現は使わず、「死が空から降り……」などとした。ただ、オバマ氏は「科学によって(中略)殺戮(さつりく)の道具に転用することができる。広島がこの真実を教えてくれる」とも語った。「殺戮」と「広島」を同じ文脈で使うことが、オバマ氏の個人的な思いを連想させる精いっぱいの表現だった。
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